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岡山地方裁判所 昭和56年(行ウ)1号 判決

岡山市新保四三八番地三

原告

西村淳

右訴訟代理人弁護士

木津恒良

右同

石井辰彦

右同

酒井満太

岡山市伊福町四丁目五番三八号

被告

岡山西税務署長

吉田義高

右指定代理人

原伸太郎

右同

平元勝一

右同

杉本肇

右同

吉平照男

右同

北脇重男

右同

高田資生

右同

藤井哲男

右同

吉岡健

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五四年一〇月八日付でした原告の昭和五三年分の所得税についての更正及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分の経緯等

昭和五三年分の所得税について、原告のした確定申告、これに対する被告の更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下、右更正を「本件更正」と、右過少申告加算税の賦課決定を「本件決定」という。)並びに本件更正及び本件決定に対する原告の異議申立及び審査請求、これらに対する決定及び裁決の経緯は、別紙課税経過表のとおりである。

2  本件処分の違法事由

(分離長期譲渡所得認定の違法性)

(一) 原告は、滝端米市に対し、昭和五三年一一月八日、香川県丸亀市幸町二七〇番一の宅地、同所二七〇番四の宅地及び同宅地上の木造瓦葺二階建居宅(以上三物件を以下「本件譲渡物件」という。)を代金二六〇〇万円で譲渡した。

(二) 原告は、右譲渡にかかる譲渡所得の金額について租税特別措置法(以下、「措置法」という。)三五条一項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)に規定する特別控除額を控除して、分離長期譲渡所得の金額を零円として確定申告したところ、被告は、本件譲渡物件は同条項に規定する居住用財産に該当しないと認定して、本件更正及び決定をした。

(三) しかし、本件譲渡物件は、次のとおり右居住用財産に該当するから、本件更正及び決定は違法である。

(1) 原告は、昭和四五年一二月一七日に敦子(改姓後大森敦子)と離婚をし、本件譲渡物件は原告の居住の用に供されなくなった。

昭和四六年八月二六日付直資四-五「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」と題する国税庁長官通達(昭和五三年五月三一日付直資三-九により一部改正のもの。)の三五-一(固定資産の交換の特例等との関係)の(注)1には、居住用財産であるかどうかの判定時期について「居住の用に供されなくなった後において譲渡した家屋又は土地・・・は、その者の居住の用に供されなくなった時の直前における当該家屋又は土地の利用状況に基づいて行い、その者の居住の用に供されなくなった後における利用状況は、この判定には関係がない。」と定められ、また、通達三五-六は、「主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」に該当するかどうかについて、「その譲渡した家屋がその者の居住の用に供していた家屋でその譲渡の時においてその者の居住の用に供されていないものである場合は、その家屋がその者の居住の用に供されなくなった時」の現況により判定することとし、この場合には、「その譲渡の時においてその者が他にその居住の用に供している家屋を有している場合であっても、措置法第三五条第一項に規定する家屋に該当する。」と定められているのであるから、本件譲渡物件が居住用財産であるかどうかの判定時期は、その譲渡の時ではなく、その者の居住の用に供されなくなった時の現況によるべきである。

そうすると、本件譲渡物件が原告の居住の用に供されなくなった時は、前記のごとく昭和四五年一二月一七日であり、この時の現況によれば、本件譲渡物件は措置法三五条一項に規定する居住用財産に該当する。

被告は、右居住用財産であるかどうかの判定時期を「譲渡の時」と解している点において、前記通達を無視したか、又はその解釈を誤った違法がある。

(2) 仮に、本件譲渡物件が(1)に該当しないとしても、本件譲渡物件は、原告の子である大森昌高がその譲渡の日である昭和五三年一一月八日まで引続きこれを居住の用に供していたものであり、原告は、大森敦子と離婚後も父として大森昌高の法律上の扶養義務を履行したのであって、通達三五-三(扶養親族の居住の用に供している家屋)に定める各要件をすべて備えている。

(3) 仮に、本件譲渡物件が(1)、(2)に該当しないとしても、本件譲渡物件は、大森敦子との離婚の調停において、離婚の条件として、同人及び大森昌高を居住せしめたものであって、同人らが居住している限りこれを譲渡しようとしても譲渡することができなかったものであり、また、同人らにこれの明渡しを要求することは人情的にできない状況にあったものである。したがって、このような事情の下においては、その譲渡の時において原告が居住の用に供していないとしても措置法三五条の適用があるというべきである。

よって、原告は、被告に対し、本件更正及び本件決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。同2のうち、(一)及び(二)は認める。(三)の(1)のうち、被告が本件譲渡物件が措置法三五条一項に規定する居住用財産であるかどうかの判定時期を誤ったとの主張は争い、その余は認める。原告は、措置法三五条一項及び前記各通達の解釈を誤っている。(三)の(2)は争う。(三)の(3)のうち、前段は不知、その余は争う。

2  被告の主張

本件譲渡物件は、次のとおり措置法三五条一項に規定する居住用財産に該当しない。

(一) 本件譲渡物件は、原告の居住の用に供されなくなった日である昭和四五年一二月一七日(原告が大森敦子と離婚した日)から三年を経過する日の属する年の一二月三一日(本件の場合は昭和四八年一二月三一日)経過後の昭和五三年一一月八日に譲渡されたのであるから、措置法三五条一項に規定する居住用財産に該当しない。

(二) 通達三五-一の(注)1及び同三五-六は、「固定資産の交換の特例等との関係」において居住用部分と非居住用部分があるとき又は措置法施行令二三条一項に規定する「その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合」に、居住用財産であるかどうかの判定時期を定めたものであって、この場合には、当然措置法三五条一項で制限された譲渡期間内であることを前提とする。

(三) 本件譲渡物件は、次のとおり通達三五-三に規定する要件を具備していない。

(1) 大森昌高は、昭和四九年四月以降、新天満屋石油株式会社及び白川産業株式会社から別紙「大森昌高」の給与所得金額表のとおり給与の支払を受けており、所得税法二条一項三四号(定義)に規定する扶養親族に該当しない。

(2) 大森昌高は、昭和五一年四月以降本件譲渡物件に居住していない。

(3) 以上のとおり、大森昌高が昭和四九年以降所得税法に規定する扶養親族に該当しないのみならず、本件譲渡物件の譲渡は大森昌高が本件譲渡物件を居住の用に供さなくなった日から一年を経過した日以降になされているのであるから、通達三五-三の但書に該当することとなる。

(四) 非課税又は税の負担を軽減する規定は、租税法律主義の見地からみだりに拡大解釈すべきものではないから、請求原因2(三)(3)に記載の事情をもって本件譲渡物件を措置法三五条の「居住の用に供している家屋」又はそれと同視することに「特段の事情」が存する場合にあたると解釈することはできない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第四号証

2  原告本人

3  乙号各証の成立はすべて認める。

二  被告

1  乙第一ないし第三号証、第四号証の一ないし四、第五ないし第一二号証。

2  証人小野員義

3  甲第三、第四号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間で争いがない。

二  本件処分の違法事由について

原告が、昭和四五年一二月一七日に大森敦子と離婚して本件譲渡物件を原告の居住の用に供さなくなった後、滝端米市に対し昭和五三年一一月八日右譲渡物件を代金二六〇〇万円で譲渡したことは当事者間に争いがない。

しかして、本件譲渡物件が措置法三五条一項に規定する居住用財産に該当するかどうかにつき争いがあるので判断する。

1  まず、本件譲渡は、本件譲渡物件が原告の居住の用に供されなくなった後になされているのであるから、右の場合につき措置法三五条一項に規定されている「原告の居住の用に供されなくなった日から三年を経過する日の属する年の一二月三一日までの間に譲渡した場合」という要件に該当することを要するところ、右譲渡期間の最終日は、右離婚の日から起算して三年を経過した年の末日である昭和四八年一二月三一日であるから、本件がこれに当たらないことは明らかである。

なお、原告は、通達三五-一(注)1及び同三五-六を根拠に、措置法三五条一項に規定する居住用財産かどうかの判定時期は原告の居住の用に供されなくなった時、すなわち昭和四五年一二月一七日であって、その時の現況によって右判定をすべきであり、右時期に原告の居住の用に供していた本件譲渡物件は、右居住用財産に該当する旨の主張をなすが、成立に争いがない乙第八ないし第一〇号証によれば、通達三五-一(注)1は、固定資産の交換の特例等との関係で、譲渡した資産が居住用部分と非居住用部分とからなる場合に右両部分の判定時期を定め、また、通達三五-六は、措置法施行令二三条一項に規定する「その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」に該当するかどうかの判定時期を定めたものであることが認められ、右両通達が措置法三五条一項に規定する譲渡期間の制限を排除するものとは到底解し得ない。

したがって、措置法三五条一項に規定される譲渡期間内に譲渡されなかった本件譲渡物件が同項の居住用財産であるとする請求原因2(三)(1)の主張は、措置法三五条一項及び前記両通達の解釈を誤った独自の見解であり、採用できない。

2  請求原因2(三)(2)の主張について判断する。

前記乙第八号証及び乙第一〇号証、証人小野員義の証言によると、通達三五-三は、扶養親族(所得税法二条一項三四号に規定する扶養親族に限る。)の居住の用に供している家屋について、国民感情、不動産取引の実態及び昭和五三年以前の通達とのバランス等を勘案し、限定的な要件の下に、その所有者にとって措置法三五条一項に規定する「その居住の用に供している家屋」に該当するものとして取り扱うことができるものとし、ただし右(二)の要件を欠くに至った日(当該家屋に居住している親族が当該扶養している親族に該当しなくなった日など)から一年を経過した日以後に譲渡が行われた場合には右通達の適用はない旨規定していることが認められる。

ところで成立に争いのない乙第三号証、乙第四号証の一ないし四によれば、大森昌高は、新天満屋石油株式会社に昭和四九年四月一五日ころ入社し、昭和四九年分として支給総計七九万九九六九円の給与等の支払を受け、以後昭和五四年分まで少なくとも六四万二八一二円以上の給与等の支払を受けていることが認められる。

右事実によれば、大森昌高は、昭和四九年四月には通達三五-三に規定する扶養親族(所得税法二条一項三四号により給与所得等の合計所得金額が二〇万円以下であるもの。)に該当しないことになったのであり、右時点より四年以上を経過した昭和五三年一一月八日に譲渡された本件譲渡物件が右通達及び措置法の居住用財産に該当しないことは明らかである。

してみれば、請求原因2(三)(2)の主張も理由がない。

3  請求原因2(三)(3)の主張についてみるに、措置法三五条一項は居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例を規定したものであり、右に該当しない原告主張の場合にまで拡張解釈をなすことは租税法律主義の見地から許されず、原告の右主張も失当である。

三  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川鍋正隆 裁判官 大浜恵弘 裁判官 西口元)

別表一

課税経過表

〈省略〉

別表二

「大森昌高」の給与所得金額表

〈省略〉

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